津田 義昭
暮れの12 月18 日(日)の夕、世間で言うところの「忘年会」が行われ、19 名が参加した。正式な名称は、「山口日仏協会創立15 周年 記念忘年パーティー」で、思い出すことと忘れることを同時に行おうという(笑)、中身盛り沢山の集いであった。
会場の、湯田温泉のレストラン・ビストロ「ル・ゴロワ」に入ると、店内には、大型のプロジェクタースクリーンが立てられ、この15 年間の協会の数々の行事が、案内のチラシ、スナップ、記念写真といった、様々な媒体をモンタージュして、次々とスライドで映し出されていた。フランスの社会や文化についての講演やシンポジウムあり、シャンソンやクラシック音楽のコンサートあり、映画上映会あり、パリ祭にちなんでの食事会あり、そして言うまでもなく、諸レヴェルのフランス語講座あり、機関誌「コレスポンダンス」の発行あり、一つ一つ列挙していては、それだけで紙数がつきてしまうが、「フランス」という存在をキーにして、実に多彩な活動がなされてきたことを、あらためて想起したことであった。
「ル・ゴロワ」は、フランス中央部のオーヴェルニュ地方出身のごの主人と、山口県出身の奥様が経営される、本格的なフランス家庭料理の店で、今回は、料理が出る前に、ご主人の生まれ故郷に里帰りされた際の写真を、ご夫妻の説明付きで、スライドで見せていただけた。アオン(Aranc と綴る)という、現在の人口327 人という小さな村だが、荒涼とした感は全くなくて、豊かな自然の中で、時間が穏やかに止まっているかのようであった。BGM には、この地方の民謡を編曲した、カントループ作曲の歌曲集「オーヴェルニュの歌」が流され、美しいソプラノの響きに、癒される思いであった。
そしてまた、宴の合い間には、今秋、アルザス地方の中心都市ストラスブールと、その近郊の町オペルネに3 カ月間滞在された田島美紀子さんから、パリの様子も含めたフランスの現況についての報告があった(もちろん、スライドの映像付きである)。壮麗な大聖堂と斬新なデザインのトラム(路面電車)が併存する光景には、これぞヨーロッパと、魅せられたが、田島さんの眼はまた、コロナ禍で職や家を失った人たちが、余儀なく、大学の構内にテントを張って生活している、厳しい現実も、捉えておられるのであった。
時間が前後するが、初代会⾧の末松壽先生は、乾杯の前のショート・スピーチで、なぜ外国の生活・文化を学ぶのか、という問いかけをされ、そして、それは、私たちの窓を開くようなものだ、と言われた。景色が一つであれば、それが世界だと、思い込んでしまう。もう一つ別の窓があれば、景色が相対化される。古い伝統を持つヨーロッパを、参照事項としてもつことは、その意味で貴重であるという、たいへん印象深いコメントであった。
当日の山口は、雪が舞い、この冬一番の寒さだったが、「ル・ゴロワ」の中は、美味しい料理に舌鼓を打ち、談論風発して、あたかも春風が吹いているごとくであった。
幹事の山本政信さん、また、この催しのために、それぞれの場で尽力された方々、ご苦労様でした。おかげで、楽しい、また貴重な時間を、過ごすことができました。 (了)